『物性推算法 序』 化学物質の「物性」と呼ばれる物理化学的諸性質は凡ゆる工業の分野で必要な事は言うまでもない.大学の理工学部では物理系にしろ、化学系にしろ一度は「物性」を学習する事になっている.しかし,その学習は理論的な理解に重点が置かれているために,いざ具体的な問題を解決する必要に迫られた場合,理論的知識のみでは無力に等しい. 2011年5月 著者記す 〇工学博士 東京都立大学院、1971年授与、指導教授は、気液平衡研究の第一人者であった故平田光穂教授、学位論文名「蒸留プロセスおよび蒸留塔の設計に必要な気液平衡の研究」 IHI且蜚C研究員を経て、東海大学教授、東京理科大学教授を歴任。この間、米国の蒸留研究機関FRI (Fractionation Research, Inc .)の客員研究員を経てコンサルタントに従事。 1975年上梓の気液平衡データ集(主要著書1番)は、ウィルソン式定数を世界で初めて掲載し、DECHEMA(ドイツ)のデータ集より2年早く出版され,MITのReid教授の書評で極めて高く評価された。マチューセッツ工科大学の物性推算法の第一人者であるReid教授は世界で最も権威がある米国の化学工学学術論文誌の最終頁の書評欄で「最も印象的で美しい気液平衡データ集...」と評価していただいた。 この書評のためもあって、同著は多くの化学工学技術者に親しまれた。Reid教授が他の共同執筆者とともに執筆した名著(初版)の3版以後、役に立つデータ集として、(主要著書2,3,4番)とともに紹介されている。 〇大江モデル 気液平衡における塩効果の推算法として提案した溶媒和数を使う推算法は、米国化学会の招待講演で発表後、「大江モデル」として使われている。 招待講演は米国化学会の専門書 Advances in Chemistry Series に2回収録されている。Prediction of Salt Effect on Vapor-Liquid Equilibrium: A Method Based on
Solvation 多数の引用例があるが、2例のみを示す。ジョージア工科大学のTejaによる大江モデル論文の引用が学術論文誌 Fluid Phase Equilibria, 219 (2004) 257-264に掲載されている。同様にウィスコンシン大学のPabloらによる引用が米国化学会の学術誌 Ind. Eng. Chem. Res. 1996, 35, 234-240に掲載されている。 〇アングルトレイの発明 運営者が発明し、勤務先IHI(株)で社長賞を得たアングルトレイを、米国の蒸留研究機関FRIで、客員研究員として実証試験を行った。圧力損失が小さく、高効率である性能を有し、化学会社10社以上で採用された。 研究開発の成果は以下の「石川島播磨技報」に発表した。 米国のFRIでの試験の結果、アングルトレイの性能が優れていることが分かったので、米国の化学工学技術の専門誌の新製品の欄に1頁を使って、写真入りで 〇物性推算法 本サイトの運営者はIHI鰍ノ入社後、直ちに物性推算の実務に、従事し、現場体験をもとに「物性推算法」(主要著書10番)を上梓した。同書は、実務体験をもとに、実務に従事する化学技術者を対象をとしている。そのために、類書である、"The Properties of Gases and Liquids"では取り扱われていない気液平衡推算式の温度特性などの記述や、純物質の蒸気圧推算法が記載されていて、広く国内や台湾・中国の科学技術者に使われている。同書の発行以後、「物性推算法」なる語が定着した感がある。 2. 本サイトの運営者・大江修造が関係した国家プロジェクト 経済産業省の蒸留技術国家プロジェクト2006に審査委員長として参加した。 3. 本サイトの運営者・大江修造の主要受賞歴 〇文部科学大臣表彰 科学技術賞(平成17年度) 4. 本サイトの運営者・大江修造の主要著書 (1)"Computer Aided Data Book of Vapor-liquid Equilibria", Elsevier, (共著), 5. 本サイトの運営者・大江修造による主要データベース・ソフトウェア (1)Excel蒸気圧データ −アントワン式定数集ー
物性は便覧などに数値データとして収録されていて,各種便覧が出版されている.しかし,便覧には限られた物質の,最も利用頻度の高いデータに限定されて記載されていることが多く,具体的な問題の解決には直ちに役立つとは限らない。各工業とも技術の進歩が激しく,地球環境の維持などにも,従来にない条件下における化学物質の物性データが必要となっており,何らかの方法によりそのデータを入手する必要に迫られている.
このような要求に応えるべく誕生したのが「物性推算法」と言う学問分野であり,理学及び工学の各専門分野の学際的領域をカバーしている学問と言えよう.すなわち,物理化学の理論に立脚して工学分野の要求に対応すべく,「物性」を計算のみにより求める学問分野「物性推算学」とも言うべき手法が,此の約40年の間に確立された.例えば,物理学や化学で殆ど論じられることのない原子団寄与法は物性推算にとり強力な手法であり,今や,殆どの物性の推算に応用されている.あるいは,対応状態原理は理論的には古くに証明された原理であるが,物性推算に応用されるようになったのは,やはりこの40年来のことである。
本書は化学物質の気体および液体状態における諸物性を推算する方法を具体例により解説したものである.化学物質は純物質に限らず,混合物の推算法をも詳細に記述した.本書では,殆ど総ての推算法を網羅している.すなわち,物理化学の理論に立脚する方法,原子団寄与法および経験的な方法である.ただし,物性推算の新しい方法として,分子シミュレーションに期待が寄せられてはいるものの,未だ,実用の域には達していないので割愛した.
著者は先に,「設計者のための物性定数推算法」(日刊工業新聞社)なる書を上梓したところ,幸いにも多くの方々に利用して頂いた.しかし,種々の事情が重なり絶版のやむなきに至った.著者のもとに,何とか入手したいと言うご御要望が少なからずあるので,このたび書名も「物性推算法」と改めデータブック出版社より発行することとなった.最初の出版から約10年経過しているので,筆者としては最近の推算法を追加する事も考えたのであるが,推算法自体が10年以上前にほゞ確立されているので,次の機会にゆずる事とした.この機会に,巻末の「物性データ表」の大幅な増強を行い,前著では516物質であったのに対して,約2倍の1068物質とした.併せて融点のデータを新規に追加した.本書が物性推算を必要としている方々のお役に立つことを念願する.最後に,本書の発行にご協力頂きました方々にこの場を借りて感謝致します.
本サイトの運営者・大江修造のプロフィル
1. 本サイトの運営者・大江修造の主要な研究実績
〇気液平衡データ集
"A most impressive and beautiful compilation of binary vapor-liquid equilibrium data....",
Robert C. Reid, Massachusetts Institute of Technology, "
AIChE Journal"(Vol.22, No.5), September,1976, page 957.
Poling, Prausnitz,O'Connell,
"The Properties of Gases and Liquids, 5th edition", McGraw-Hill, 2000
Table 8-1a Some Useful Books on Fluid-Phase Equilibria
Advances in Chemistry Series, No.155, 53-74 (1976) (米国化学会)
Prediction of Salt Effect on Vapor-Liquid Equilibrium: A Method Based on
Solvation II
Advances in Chemistry Series, No.177, 27-38 (1979)(米国化学会)
(1)蒸留塔用トレイの研究,9巻 495-504 (1969)
(2)多孔板塔の塔効率, 10巻 314-317 (1970)
(3)ベンチスケール蒸留装置による実験的研究,10巻 217-222 (1970)
(4)アングルトレイの性能試験,12巻 461-465 (1972)
(5)アングルトレイのスケールアップ試験,14巻 105-110 (1974)
"Distillation Tray Features, Low ΔP, High Efficiency", CHEMICAL ENGINEERING, January 20, p.62, 1975
と紹介された。
「内部熱交換による省エネ蒸留技術開発(HIDiC)」委員(敬称略)
分科会長 大江修造(東京理科大学)
分科会長代理 仲 勇次(東京工業大学)
分科会委員 小山 繁(九州大学)
分科会委員 齋藤熹敬(アルコール協会)
分科会委員 松田一夫(千代田化工建設)
分科会委員 緑 静男(ミヤコ化学梶j
〇化学工学会 国際功労賞(平成22年度)
〇米国化学工学会 (AIChE: American Institute of Chemical Engineers)
分離技術部門表彰(平成20年、日本人では初)
Elsevier, 全 970 頁中 829 頁執筆 (1976)
(2)"Vapor-liquid Equilibrium Data", Elsevier, 全782頁(1989)
(3)"Vapor-liquid Equilibrium Data at High Pressure", Elsevier, 全382頁(1990)
(4)"Vapor-liquid Equilibrium Data-Salt Effect", Elsevier, 全394頁(1991)
(5)「蒸留工学」講談社,頁数 200 (1990)
(6)「改訂5版 化学便覧 基礎編U 日本化学会編」(共同執筆)
7.輸送現象の熱拡散中の気体中の拡散(U-67〜U-70頁)丸善(2004)
(7)「分離のための相平衡の理論と計算」講談社, 全237頁 (2012)
(8)「蒸留技術大全」日刊工業新聞社, 全387頁(2017)
(9) 「改訂6版 化学便覧 基礎編U 日本化学会編」(共同執筆)
7.輸送現象の熱拡散中の気体中の拡散を担当丸善(2021)
(10)「物性推算法」データブック出版社、全426頁(2011)
(2)Excelによる気液平衡データ集第2版
(3)Excelによる気液平衡データ集,NRTL式編
(4)Excelによる多成分系蒸留計算プログラム
(5)Excelによる多成分系蒸留計算プログラム(側流付)
関連リンク
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